cocoyutaka's メモ

半自分用メモ

話題のポン・ジュノ監督の「グエムル-漢江の怪物-」をAmazon Primeで見た

 ポン・ジュノ監督の「パラサイト 半地下の家族」がアカデミー賞を受賞したからなのか、Amazon Primeでおすすめ上位に出てきたのを期に見てみることにした。
 
 映画自体は公開された頃に既に評判を聞いていた。映画の公開は2006年。あの頃、2001年日本公開のシュリ、JSAなどから韓国映画は日本映画よりすごいんじゃないかという評判ができつつあった。2003年に冬のソナタが日本で放映され、いわゆる韓流ブームがわきあがっていた。
 もっともWikipediaの韓流ブームの記述を見る限りでは、2006年には韓国映画は買い付け金額が高いわりに日本国内ので興行収入が上がらず、2007年には少なくとも映画ブームとしてはほぼ終息したようである。その背景には、世界的な成功を続けているK-POPとは違い、国内向けの作品が主だったからだとも。いわく恋愛と軍事物ばかりである、と。

 ともあれ、韓国のモンスターパニックものとしては面白いよという評判と、トレイラーで「怪物」が人を襲っているシーンを少し見た記憶だけという状態で見てみた。
 
 見終わった感想は、というと、まず出てきた言葉は「うーん」というもの。

 

 ここには、なかなか興味深いものを見たという唸りと、ハッピーエンドとは言い難いエンターテイメントしきれない作風に、ちょっとカタルシスが足りず寂しいという二つの感情がこもっている。面白いかどうかといわれれば「興味深い」という意味では面白い。けれども、B級パニックエンターテイメントとしてはどうだろうと言わざる得ない。好きか嫌いかで言えば個人的には大変好きだが、人に勧めるかどうかといえば、ちょっと難しいかなとも思う。
 
 一行でこの話を整理するなら、「米軍のせいで生まれた怪物に娘を奪われた父親・爺さん・叔父・叔母が彼女を取り戻すべく軍・警察に追われながら追跡し対決する」ということになる。
 どうでしょう。興味わいてきましたでしょうか。

 

 主演は、「パラサイト」でも主演のソン・ガンホ。これが社会的落伍者として描かれている。
 実父からは、できた妹・弟に対し「あいつは2歳までは賢い子だった。頭をうったせいなのか今は情けないと思うかもしれないが、そんなことを本人には言うな」とフォローにもなっていないことを言われ、実際言われた二人も、話も聞かずに眠そうにするだけというシーンがある。こうした緩いギャグのシーンが多い。

 

 ほかにも物語の中で、「怪物」に接触するとウィルスに感染するというくだりがある。主人公は合同葬儀の場からそのまま検疫官たちによりパック詰めされて強制排除される。しかし次のシーンでは主人公の家族のいる病院に隔離されることなく同じようにすし詰め状態にされており、家族にも「あのものものしい連行はなんだったんだ」とつぶやかれる。
 なお、このウィルス描写のせいか、監督は今回のアカデミー賞がらみのインタービューでも、新型コロナの対応についても質問されていた。浦沢直樹の漫画「20世紀少年」をあげつつ、人間の不安恐怖、人種偏見などがもっと怖い、などと返答したそうである。
 現実の政治関連のネタとして自分のコメントが使われるのは避けたいということだろう。

 

 他にも、太った「エイリアン」のような怪物が冒頭河原で暴れまわるシーンも怖いながらもどこかコミカルだし、共同葬儀場で泣き崩れる主人公家族も、あんまりにも駄々っ子すぎる描写はいくら韓国には泣き女文化があるにせよやりすぎである。そもそも若き叔母役のペ・ドゥナが、アーチェリーの選手として出てきた時点で「うん、これで『怪物』を射るのがクライマックスなんだろうね。うんうん」と目を細めてしまった(そして実際にそうなる)。

 

 この「緩い」感じはおそらく監督の作風なんだろう。だが、そこが、プロットのサスペンスとちょっとノリが合わないのではないかとも感じてしまう。これは作り手の照れなのかなとも思う。

 

 扱っているモチーフは実は結構シビアだ。米軍の言いなりになる韓国。貧乏人への辛辣な描写。社会の敵となると容赦ない韓国人社会。そしてダメ父が父としてどう生きるかということ。これらに物語中のカタルシスは無い。いわばやられっぱなしなのである。故に「うーん」と唸ってしまうのである。

 

 ぐっとくるシーンはいくつかあった。一番は、主人公の父親(お爺ちゃん)が怪物を前に死を覚悟して、「はよ行け」と手をしっし、しっとするところ。ベタである。でもそこがいい。

 あとは若い叔母役のペ・ドゥナ。かわいい。臙脂色のジャージを着て顔が泥まみれになっているのがいい。鉄橋の橋げたにある穴からひょこりと顔を這い出し、ゲームキャラかよと言わんばかりに前傾姿勢でアーチェリー片手に、橋の上を走りだすシーンがストーリーとは関係なく何とはなしに好きだ。
 
 ちなみに、ペ・ドゥナはこの前年2005年には日本の山下敦弘監督作「リンダリンダリンダ」に出ている。なんなら、2009年には是枝裕和監督の「空気人形」でも主役を演じている。先日、同じカンヌ映画祭のグランプリを取った者同士ということで、是枝裕和ポン・ジュノとの対談インタビューを受けていた。彼らは大変近いところで映画を撮っている。

 

 もう一つ最後まで見ての感想としては「これも、『そして父になる』」なんだなあということ。
 
 是枝監督のそのものずばり「そして父になる」も「万引き家族」も主題の一つが「弱い父親」だった。そういえば山下監督が数年前に撮った「山田孝之のカンヌ映画祭」というモキュメンタリー(ドキュメンタリー風ドラマ)も、最後はオチは弱い父との再会だった。パニックものでいえばスピルバーグの「宇宙戦争」もそんな話だ(これも2005年か)。
 
 こういった弱い父像の反動が、トランプを筆頭とする反知性的な強いリーダーを求める今の流れになっているのかもしれない。
 「パラサイト」はまだ見てないので、そのあたりがどう描かれているかは気になってはいる。