cocoyutaka's メモ

半自分用メモ

「サンディ・ピーターセンの暗黒神話体系 クトゥルフの呼び声TRPG」を買ってみた

 

 実際にゲームをやらないのに、TRPG(テーブルトークロールプレイングゲーム)のルールブックを買い集めてもう長いときがたつ。

 

 最初はいつかは実際に遊びたいなと思っていたが、段々とそれとは別にルールを読むこと自体が面白いと感じるようになってきていた。
 それは、もはや地図やガイドブックを見て、どんなところなのか想像することに近いかもしれない。

 TRPGは、現実やファンタジー、ホラー世界などを舞台をしており、その中でどのような行動をすると、どのような結果になるかということを、サイコロによる成功率などのルールを交えて表現している。

 例えば、「クトゥルフ神話TRPG」のシリーズの中には、中世ヨーロッパ(主に現在のドイツあたり)を舞台としたルールブックがある。当時の物価(通貨はデニール銀貨)や、病気(赤痢、ペスト)や、職業(木こり、傭兵)などがあり、異教徒のマジャール人と対立するドイツ東部を護衛として旅するとか、実に地味でニッチな内容だ。

 似たようなものでは大正時代の日本を舞台にした「クトゥルフと帝国」や、19世紀末のロンドンでシャーロック・ホームズと会える「クトゥルフ・バイ・ガスライト」などもある。

 クトゥルフ神話TRPG以外でも、アメリカの社会に潜む不死のヴァンパイアの社会ーを描く「ヴァンパイア・ザ・マスカレード」、スーパーパワーと引き換えに人間性を失うウィルスに侵された日本産ダークヒーロもの「ダブル・クロス」などファンタジー以外での世界観は読み物としても面白い。

 

 とはいえ「クトゥルフ神話TRPG」は舞台を現代で遊ぶことが多い。とりわけ日本ではそうだ。予備知識が少なく、わかりやすいというのがあるようだ。

 

 そこで「サンディ・ピーターセンの暗黒神話体系 クトゥルフの呼び声TRPG」である。 

 

 去年、2022年には出版されていることは知っていたのだが、ずっと購入することをためらっていた。
 というのも、この本は「クトゥルフ神話TRPG」のルールブックではないのである。
 サンディ・ピーターセンはオリジナルの「クトゥルフ神話TRPG」を作成したアメリカのゲーム作家だが、この本は別のファンタジーTRPG、「ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ第5版(D&D 5e)」のルールに基づいた本なのだ。
 
 中身も、現代ではなく、ファンタジー世界を念頭においており、そこで、クトゥルフ神話TRPGで出てくる人間では絶対に倒せないような「神」とも言うべき強大なクリーチャー等がモンスターとして数値化されている。
 プレイヤーになれるキャラクター(PC)も独特だ。「ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ」が元となっているので、当然人間のキャラクターとしてプレイできるのだが、追加PCとして「食屍鬼(グール)」「幻夢境(ドリームランド)の猫」「ズーグ(ネズミ人間)」「ノーリ(へび人間)」が紹介されている。
 
 グールはクトゥルフ神話TRPGの中でもポピュラーで、その名の通り、墓場に現れては人間の死体を食べるアンデッド(暗黒の魔法の力で生きる死人)。そもそもが人間から変化した知性ある存在として描かれていた。

 しかし今回の「暗黒神話TRPG」ではアンデットのようで、そうではない生きた種族として設定されている。人間社会で冒険者もやっているという。ファンタジーでのオーガの亜種のような存在のようである。

 何なら子供を宿すこともできる。しかし、生まれての子供の頃は元の種族のように見えるので、普通の子供として育ってほしいと、本物の赤ん坊とすりかえる「悪いグール」もいるという。そんな二世の中には、大人になってグールになることも、死の間際に覚醒するものもいるとか。設定がいちいちエモい。

 

 「幻夢境(ドリームランド)の猫」もまたいろいろな種族(火星猫、地球猫、天王星猫、土星猫)の紹介がされている。

 ここでさらりと「幻夢境(ドリームランド」という名前がでてくるが、これは「クトゥルフ神話」の中で出てくる、夢の世界のことで、通常の人間が眠りについたときに無意識で過ごしている世界だとされる。覚醒とともに通常記憶は失われるのだが、ごく稀に現世の記憶をもったまま、「幻夢境」と行き来できる人間もいるという。その上、現実世界と実際に「幻夢境」と結びついた場所もあるといい、そこからは生身のまま「幻夢境」に行くことができる。グールも実はこの「幻夢境」の住人であり、現世と行き来しつつある空間として墓場の奥地が設定されていたりする。


 そんな「幻夢境」で生きている知的生命体が「猫」である。もちろん、しゃべる。何なら、「幻夢境」の猫は覚醒した世界でも生身の「猫」の実体をもっており、人間とは違い、双方の世界の記憶の忘れずにいられるのだという。

 つまり現実の猫がいつも寝ているのは普段「幻夢境」で生活しているためということになる。現世はもはや休憩時間のようなものだ。

 ちなみにPCとしては戦士にも魔法使いにもなれる。

 こたつで寝ている間、猫は「幻夢境」で冒険中なのである。
 
 「ズーク」は正直そんなのいたっけというほどマイナーな存在だ。そもそも設定として「幻夢境」にしかでてこない。

 「幻夢境」にて、夢と現実の入口近くで村を作っている身長60センチ程度のネズミに似た知的種族としてしか描かれていなかった。「クトゥルフ神話TRPG」にもさらりとデータと簡単な説明があるばかりだ。

 モチーフはやはりネズミのようで、通常4歳で成人して子供を8人設けるので、20年で5万体にもなると説明がある。敏捷性と知性にすぐれ好奇心が強く発明好きというところからD&Dでのノームに近いのかもしれない。基本魔法使いや盗賊の職業として冒険者になるらしい。
 
 「ノーリ」に至っては全く記憶になく、「クトゥルフ神話TRPG」の元ルールを読み返してしまった。しかし載っていない。モンスターだけを集約した本「マレウス・モンストルム」にもない。「幻夢境」だけを扱った「ラブクラフトの幻夢境(ドリームランド)」というサプリメント(追加ルール集)で、やっと「ノオリ」という名前で見つけた。ほとんどの「クトゥルフ神話TRPG」ユーザーは名前すら知らないのではないか。
 「ラブクラフトの幻夢境」では2から4本の腕を生やしたあのあごひげ生やした男の人魚、のような表記だが、「暗黒神話TRPG」のほうでは腕は2本の状態から、自分の意思で追加の3本目、4本目を少し時間をかけて出したり、ひっこめたりできる設定となっている。顔も人間というより蛇やトカゲのような顔で、髪の毛のようにみえる「髭」では鰓呼吸をしており、水中で常時生活ができるという。体長も大きく、2.5から4メートルほど。「クトゥルフ神話TRPG第6版」的にはSIZ 2d6+12(平均19)と記載あるので、人間(2d6+6)の1.5倍ぐらいと考えればよさそうだ。戦士として複数の腕で攻撃できたり、とりあえずなんかすごい強い水中型リザードマンという感じでもある。
 
 という風に追加PCだけみてもすっかりおなか一杯な情報だが、これに加えてメジャーな「クトゥルフ神話TRPG」のクリーチャーがD&D第5版のルール表記で記載されている。有名なクトゥルフなどは第1形態から第4形態まであり、数値的にもものすごい強い。その上、最終的にも放逐されたり、活動停止になるだけで永久に死ぬわけではない。誰がこんなものと戦いのだという感じだが、きっと需要があるからこそ、こういう本の出版が成り立つのだろう。
 
 ここまで、お分かりのように、通常現代を舞台にして、戦闘すらしないような一般人をキャラクターとして、目星や心理学、図書館などのスキルを使い、人と会話したり調べものをしたりする「クトゥルフ神話TRPG」とこの「暗黒神話TRPG」はまったく別のゲームだ。世界初のRPGとよばれるD&D自体は、剣や魔法を使いひたすらモンスターと戦い、財宝やマジックアイテムを得てゆき、経験値を得て強くなってゆくというゲームで、劇的な成長ルールすらない「クトゥルフ神話TRPG」と差がはげしい。

 D&D自体は世界的には(特にアメリカでは)、ほぼ標準といっていいほど現在でももっとも普及したTRPGだ。だが日本では残念ながらプレイ人口は少ない。1980年代から何度も日本語翻訳されているが、バージョンが変わるたびにその引継ぎがうまくゆかずなかったせいもある。結局、バージョンアップしてもほとんどルールに変更がなかった「クトゥルフ神話TRPG」が日本ではトップになった。

 しかし、そういう意味では「クトゥルフ神話TRPG」は2019年からそれまでの第6版から第7版に出版を切り替え、第7版のほうを「新クトゥルフ神話TRPG」として売り出し、大きなルールの変更が生じたので実は危うい。それまでは数値の調整や、オプションツールの増減程度だったのが、いよいよ肝心のサイコロによる行為判定や、能力値の表記、対応するスキルの項目などにも手を加えた。こうしたものは、一部で使われていた「ハウスルール」を採用したものであり、曖昧で遊びにくい部分を修正した結果なのだろうが、かえってプレイヤー離れを起こしかねない。

 なお、前述のとおりD&Dでは、第3版から第3.5版まではマイナーな変化だったが、次の第4版で大幅修正を加えたため、プレイヤーの離散を経験した。あまりにも違うと、第3.5版を元にした私家版ルーツが別ゲーム「パスファインダー」として発売されたほどだ。その結果第5版では、逆に第3.5版にルールが近いように戻している(アメリカでは「D&D第5版」対「パスファインダー2版」の争いがまたあるとかないとか)。クトゥルフも第7版が挫折して6版回帰の8版が出る可能性もありそうだ。

 

 さて話を戻して、なぜこの「暗黒神話TRPG」の本をあらため購入したのかというと、単純に、お店で現物をみてほしくなってしまったということに尽きる。何しろ、ハードカバーで前ページカラー印刷。すべてのページにとまではいかないが、事典のようなイラストの点数である。文章だけのルールブックもそれはそれで好きなのだが、やはり所有欲への刺激はフルカラーのほうが強い。
 TRPGのルールブックは自分のようなほとんどコレクターのような人の買い支えによっても成り立っているところもあるのではないかとも思う。だからどうだということもないのだが。
 
 ついでに、この「暗黒神話TRPG」にはD&D第5版のコアルールが「フィフスエディションRPG」という名前で別冊についている。こっちは通常印刷のモノクロペラペラ本で、イラストも一切ない。というかこの冊子、208ページあるのだがすべて日本語訳でネットで無料でアップされている。興味のある方は、下記URLからPDFで読めるのでダウンロードしてみるのもよいかもしれない。
 
 

https://wit-awscms-witweb.s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/hjcardgamer/5eRPG_Core_0826.pdf

フィフスエディションRPG コア・ルール(in https://hj-trpg.com/ )

 

 コア・ルールとあるように、キャラクター作成ルールのうち、D&Dの標準世界に沿ったオプションルールを除くと、ほぼすべての職業・種族・魔法のルールが記載されていて、最高レベルである20レベルまですべてカバーしている。

 無料で公開しているなら数千円もする本の方は買わなくなるのではとなるかもしれいないが、そこは長い歴史の上、むしろ普及のためにはこのほうがよいと販売元のウィザードコースト社は判断したようだ。しかも、無料で公開したでけではなく、明記さえしておけば、このコアルールを元に、追加ルールを有料で出版することさえ可能となる。「暗黒神話TRPG」もその一つというわけである。
 
 なお、悲しいことに、D&D第5版の日本語版はもともとホビージャパン社が行っていた。しかし、本家のウィザードオブコースト社が海外出版に関して一括委託契約をしていたGale Force Nine社(GF9)と、契約上の仲たがいを生じさせた結果、日本版はウィザードオブコースト日本支社が直接販売することになってしまった。

  梯子を外されたホビージャンパンは出版済の日本語5版のルールブックやサプリをすべて絶版にさせられ、販売できるのは「フィフスエディションRPG」というD&Dの名前も使えない形のしかも、追加ルール集だけが販売することになった。

 いわば、「暗黒神話TRPG」は、自分たちこそがそもそも日本語版D&Dを前のバージョンから普及させてきたぞという自負の最後の抵抗みたいなもだ。だから需要うんぬんを度外視して出版したのではとも思う。
 
 そういういった事情を分かった上でも、一つ「サンディ・ピーターセンの暗黒神話体系 クトゥルフの呼び声TRPG」には不満がある。

 あきらかに「幻夢境」を舞台にしているのに、地図も含めその地理的情報を全く載せていないのである。

 あるのは、趣味としかいいようのない、サンディ・ピーターセンが考えたPCやクリーチャー、魔法の「マイ設定」ばかりである。カラーマップの一つもつけてよさそうなのに。そういうのは、すでに別ルールとは「ラブクラフトの幻夢境」があるから同じようなことはしたくない、ということなのか。
 
 思えばサンディ・ピーターセンは、「クトゥルフ神話TRPG」の元となった「ルーンクエスト」というファンタジーTRPGのライターの一人であった時からそういう人だった。「ルーンクエスト」も文化人類学の影響を受けた、多神教世界の神話をもった硬派なゲームだったが、その中でも、サンディ・ピーターセン「トロールパック」という異常に設定過多なサプリメントを書いて有名になった。
 トロールはそれまでトールキンの作った指輪物語トロールのイメージが下敷きとなっていてそれで事足りていたが、このサプリの中は架空のトロール社会をどうゲームに使うのというようなぐらい細かく設定したという。このノリは、今回の「ズーク」や「ノーリ」の設定にも引き継がれている気がする。

 

 以上のように、とても万人に勧められるようなものではないが、書き手の楽しさが伝わるから、こちらもこれはこれで満足している。

 

【参考】文中で出てきた他ルールブックたち

幻夢境ワールドガイドであり、クトゥルフ神話TRPで無理やりファンタジーアクションRPGしたい人向け追加ルール。ある意味ルーンクエストへの先祖帰りか。

これ単体で遊べる簡易ルールつき。もともとドイツの販売会社が作成したサプリが英語本家に逆翻訳されたという稀有なパターン。ロフトのおしゃれグッズの中に紛れて販売されているのを見たことがある。無茶しやがって

元のクトゥルフ神話TRPの舞台が1920年アメリカなので、同時代の日本となると大正時代あたりになる。今となっては鬼滅の刃の時代になってしまったが、軍や拳銃、スパイなど冒険の舞台としてはポテンシャルはまだまだ高い。ちなみに英訳などはされていない。

原著は当初、著作権上の問題でシャーロック・ホームズの名前をそのまま使えず、別のキャラ名にしていたらしいが、いつの間にか解決して今の版はそのままの名前を使っている。自分は詳しくないが、シャーロキアンの細かい目でどう見えているのかは気になる。正直、日本人からすると1920年アメリカとの差異がよくわからないのだが。

 

最近ではあまり名前も聞かなくなったが、おしゃれ系TRPGとして一時話題になった。ぶっちゃけブラッドピット主演の映画にもなった「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」的な世界。今のクトゥルフ系同人TRPGもイラストやレイアウトに凝ったものが多いがそういった流れの源流にあるものと言えるかもしれない。

洋物ばかりの列挙の中で純国産TRPGの一つ。学園異能TRPGとしては、頭ひとつとびぬけている。親しいキャラクターとの縁(ロイスという)をいくつも設定しておき、その対象が死んだり裏切ったりすると感情の激動により最強になったり行動不能から復活したりする。中二病の極地のようなルールが多数。