cocoyutaka's メモ

半自分用メモ

香港デモから「銀河英雄伝説(石黒版)」を見返した

 香港のデモが続いている。

 2014年の時は3か月ほどで終わった。今回、抗議活動自体は3月からあったようだが、本格的に参加者が集まったのは6月の頭頃からだ。もう3か月はすぎた。しかも、今回のデモのきっかけだった「香港で逮捕した容疑者を中国本土に引き渡す」という条例改正が完全に「撤回」と宣言されたのに、まったく収まる気配がない。

 それどころか、すっかりデモが日常化して、サバゲーに親しむメンバーがてきぱきと前線で活動しているとか、デモのテーマソングが詠み人知らずで生まれ合唱し始めたとか、どこか報道にも切実さともちょっと違うなにかが混じり始めてきた。

 

 そこで、思い出したのが、「銀河英雄伝説(アニメ)」に出てくる「自由惑星同盟国歌」だった。

 銀河英雄伝説は、80年代終わりのスペースオペラ小説だが、OVAとして1988年から1997年まで9年かけてアニメ化された(しかもその後、外伝も数年続いた)。1話30分で全110話という、初見さん殺し作品でもある。

 SFなのになぜか世界名作劇場な雰囲気があったり、全編クラシック音楽がBGM採用されていたり、作画が若干ヘタレなのに反比例するようになぜかゴージャスという、一言でいうと「不思議なアニメ」だ。

 

 物語は、はるか未来、三国志をベースに銀河帝国と、それと150年戦い続ける自由惑星同盟、そして両者の中で漁夫の利を狙う商業国家フェザーン自治領との三つ巴を描いている。もともとは、魏=銀河帝国、蜀=自由惑星同盟、呉=フェザーンというイメージで始まったらしいが、中華圏では帝国=中共(大陸)、同盟=台湾、フェザーン=香港なんて見立てもあるらしい。

 三国志が下敷きだからとか、同盟側の主人公ヤン・ウェンリーが中華系の名前とかで、もともと台湾で人気があり、香港、大陸側へと認知が広まり、おそらく中華圏のアニメ・SF界隈で知らぬものはいないという状況である。

 

 で、その同盟側ではしばしば同盟国歌が歌われる。スターウォーズダースベーダーが出ると帝国のテーマが流れるように、同盟側の描写になるといつも、同盟国歌(をモチーフにしたBGM)が流れ始める。

 そして実際、何度か歌詞つきの合唱シーンがある。当初は堕落した衆愚政治の政治家が、国民に献身を強制するかのように歌われ、後半では圧倒的な帝国包囲網の状況の中で、どこか楽し気に誇らしげに主人公サイドで歌われる。この第86話のイゼルローン共和政府樹立時での国家斉唱はなかなかの名シーンだ。

 

 話を香港デモに戻すと、この香港の当事者で「銀英伝」を知っているひとは昨今の状況をどのように思うのだろうかと、どうしても想像してしまう。

 もともと同盟側のエピソードは、近代民主主義国家がどのようにして堕落してゆくのかという過程を史実を参考にこれでもかと描写している。

 自身の選挙結果ばかり気にする政治家。愛国を叫び他者を戦争へと駆り出させたり、政治的に潔癖であろうとクーデータが始まったり、自国民のデモに発砲したり、今なおつづく「民主国家」の欠陥具合が強調される。

 一方帝国側では若き天才の出現により古い世代が一掃され、ある意味同盟以上の善政と強固な軍事力を持つことで、同盟を圧倒する。以降、ネタバレとなってしまうが、最終的に政治的な勝利を得るのは才能ある専制君主を抱いた側なのである。

 

 上の例でいうフェザーンは真っ先に帝国に飲み込まれる。これを香港に例えるなら、銀英伝の物語は面白くないだろう(しかも物語的にはフェザーンの上層部はあきらかに悪側の描写だ)。

 だが、実際の状況は明らかに同盟側のエピソードと重なる。日本でも学生運動はあったが、今の香港ほどの政治的切実さも広がりも無かった。

 今同盟国歌をもっとも本気で歌えるのは香港市民しかいないだろう。

 

/// 

 以下、蛇足である。

 

 と思いつつも、上述の通り、すでに抵抗歌のようなものもあるらしい。出番はないということか。しかもこれを書く前に銀英伝にアニメを見返していて、これもまた冷戦の名残ある古い時代の史観なのかもしれないとも思いはじめている。

 この作品は、昨年、最初のほうだけ(12話分)リメイクされた。原作よりにしたという触れ込みだが、個人的には政治的要素を薄めただけ、却って離れたように感じる(なお現在過去版は監督の名前から「石黒版」とも言われる)。

 まだ冷戦崩壊間際で、大きな武力対立は今後なくなるだろいうという楽観もどこかあった。事実は、小規模な民族紛争が常に生じ、それは今も収まることを知らない。

 大陸側の住民は香港のデモを快く思っていないという。大陸からの中国人旅行者が香港独立を祈願した絵馬数枚を、取り外して土に埋めたとSNSで自慢する事件までおきた(当の神社の人が指摘を受けて掘り起こしたそうだが)。

 大陸側住人は香港人を金持ちで既にたくさん利権を持っているのにまだ欲しがるのかと嫌悪しているらしい。お祭りめいた態度も気に食わないのかもしれない。ここの圧政からの解放という観点はない。強い中央集権国家への信頼と、そこをどうかけのぼるのか、ということに意識があるのだろう。若き天才の新帝国に集まる臣民の気分であるのか。

 であるならせめて相手にリスペクトぐらいあってもいいと思う。

 

 個人的には帝国から敗残して同盟に来た名将メルカッツ提督的ポジションの人はいないのかと思いながら、もう、既に妄想もすぎると気づき、ここにいったん筆を置く。